【労働者派遣法改正の歴史】2015年〜2022年までの改正について解説
労働者派遣法は、1986年に施行されてから多くの改正が行われています。また、時代の流れや社会の変化に応じて適切な状態になるように規制の強化や緩和を行うことでバランスを保ってきました。
本記事では、2015年から2022年までの改正について現在の労働者派遣法に至るまでにどのような改正が行われてきたのか、それぞれの改正内容をご説明します。
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改正の内容
労働者派遣法は、1986年に施行してから2007年の改正までは規制緩和が行われており、2012年の改正では労働者を保護するために規制強化が行われました。
1986年の施行から2012年の改正までは下記の記事で紹介していますので、興味のある方はぜひご参照ください。
【2015年】 労働者を保護するための改正
2012年の改正に加え、2015年の改正では更なる労働者保護のためにさまざまなことが義務化されました。
労働者派遣事業が許可制になる
改正前、派遣事業を始める方法は、「許可制(一般労働者派遣事業)」と「届出制(特定労働者派遣事業)」がありました。届出制は、無期雇用労働者のみ在籍している派遣事業の場合です。届出制では、在籍者は無期雇用の派遣労働者であるため、労働者保護が図られるだろうと考えられていました。しかし、実際の内訳は有期雇用が多く、また「一般労働者派遣(許可制)」に比べて行政処分件数が多い、許可制を満たせない為に「特定労働者派遣(届出制)」と偽って一般労働者派遣を行う事業者がいるなど労働者保護の観点で多くの問題があったため、全て「許可制」になりました。
全ての業務で派遣期間の上限が原則3年になる「3年ルール」
2015年の改正前まで派遣可能期間は、専門26業務は無制限、それ以外の業務は最長3年とされていました。しかし、この改正によって派遣期間の上限が原則一律3年(通称3年ルール)になりました。また、この期間制限は事業所単位と個人単位の2種類あり、“事業所単位”では意見聴取、“個人単位”では組織単位の変更によって3年間の期間制限を延長できます。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
労働契約の申し込みみなし制度が加わる
労働契約の申込みみなし制度とは、派遣先が違法派遣と知りながら以下の違法派遣を受け入れた場合、派遣労働者に派遣元と同じ労働契約で派遣先の直接雇用になる権利が生じ、派遣労働者が直接雇用になることを望んだ場合派遣元は断ることができない制度です。派遣先が違法派遣であることを知らず、また、知らなかったことに過失がない場合は適用されません。
通常、労働契約は派遣元と派遣労働者との間で結ばれますが、派遣先が労働契約を申し込んだとみなされた場合、みなされた日から1年以内に派遣労働者が承諾の意思表示をすることで派遣労働者と派遣先との間で労働契約が成立します。
【対象となる違法派遣】 |
労働契約申込みみなし制度について詳しくは以下の記事をご覧ください。
派遣労働者の雇用安定措置の義務化
派遣元は派遣労働者の雇用を安定させるため、派遣先の同じ課やグループなどの組織単位に継続して3年間派遣される見込みのある派遣労働者に対して、派遣終了後の雇用を継続させる措置(雇用安定措置)を講じることが義務化されました。
1年以上3年未満の見込みの方に対しては努力義務であり、具体的な雇用安定措置は以下のことが挙げられます。
【雇用安定措置】 |
また、①の雇用安定措置をとった場合で直接雇用に至らなかった場合は②〜④の雇用安定措置をとる必要があります。
派遣労働者に対するキャリアアップ措置の義務化
改正により、派遣元は雇用している派遣労働者のキャリアアップを図るため、計画的な教育訓練・希望者に対するキャリア・コンサルティングを実施することが義務化されました。
待遇決定において考慮した内容の説明の義務化
派遣労働者の待遇を他の労働者と均衡にするため、労働者からの求めがあった場合、派遣元は以下の点について「派遣労働者の待遇」と「派遣先で同種の業務に従事する労働者の待遇」の均衡を図るために考慮した内容を説明する義務があります。
・賃金の決定 |
【2020年】 働き方改革による改正「同一労働同一賃金」
2020年の改正では、2018年の働き方改革関連法成立によって派遣労働者と正社員との不合理な待遇差を解消するために、同一労働同一賃金が導入されました。同一労働同一賃金の待遇決定方式には、派遣先均等・均衡方式と労使協定方式の2種類があります。派遣元はどちらかの待遇決定方式を選択しなければなりません。この2つの待遇決定方式についてそれぞれご紹介しますが、同一労働同一賃金についてより詳しい内容を知りたい方はぜひ以下の記事もあわせてご覧ください。
派遣先均等・均衡方式
派遣先均等・均衡方式とは、派遣先の正規雇用労働者と均等・均衡な待遇にする方式のことです。均等な待遇とは職務内容などが同じ場合は同一の待遇にすることであり、均衡な待遇とは職務内容などが異なる場合は、さまざまな事情の相違を考慮して不合理な格差がないようにすることを意味します。派遣元が派遣労働者と派遣先の正社員の待遇を比較し均等・均衡にするために、派遣先は派遣元に正社員の待遇に関して情報を提供しなければいけません。
労使協定方式
労使協定方式とは、一定の要件を満たす労使協定によって待遇を決定する方式です。労使協定は、過半数労働組合または過半数代表者(労働者)と派遣元事業主(使用者)との間で一定の事項について書面で締結します。
【2021年1月】 派遣元と派遣先に新たに課された義務及び規制緩和・派遣元の義務
2021年は1月と4月の2回改正が行われ、1月に行われた改正では、派遣元及び派遣先への義務と規制緩和について改正が行われました。
派遣元が負う義務
改正によって新たに派遣元が負うべき義務は、派遣労働者の雇入れ時にする説明と日雇い派遣の途中契約解除時における措置の2つあります。それぞれについて詳しく説明します。
派遣労働者の雇用時にする説明
派遣労働者のキャリア形成を支援するため、派遣元は派遣労働者と雇用契約を結ぶ際に派遣元が実施する教育訓練やキャリアコンサルティングについて派遣労働者に説明することが義務化されました。
日雇派遣の途中契約解除時における措置
日雇派遣労働者が自身の過失が理由で労働者派遣契約を途中解除された場合を除き、派遣先との派遣契約が途中解除された場合、派遣元は日雇い派遣労働者に対して新しい派遣先の紹介や労働基準法に基づいた休業手当の支給などを行うことが義務化されました。
派遣先が負う義務(派遣労働者からの苦情処理)
改正によって新たに派遣先が負うべき義務は、派遣労働者からの苦情処理です。これまで、労働関係法令によって派遣労働者からの苦情は派遣元が対応する必要がありました。しかし、今回の改正によって苦情処理は派遣先も誠実で主体的に対応するべきであることが明記され、届いた苦情は派遣先管理台帳に記載することが義務化されました。
規制緩和(派遣契約書の電磁的記録の許可)
これまで、労働者派遣契約は派遣元と派遣先で書面により作成する必要がありました。しかし、改正によってデジタル・web記録による作成も許可されることになりました。
【2021年4月】 派遣元に新たに課された義務
2021年4月の改正では、派遣元に対して雇用安定措置に関わる派遣労働者の希望聴取等、常時インターネットでの情報提供の2つのことが新たに義務付けられました。
雇用安定措置に係る派遣労働者の希望聴取
派遣元は雇用安定措置の実施にあたり、派遣労働者の希望する措置の内容を聴取し、その結果を派遣元管理台帳に記録することが義務付けられました。
インターネットでマージン率等の情報提供
派遣元による情報提供が義務づけられているすべての情報(マージン率等)について、常時インターネットあるいはその他の適切な方法により情報提供をすることが義務付けられました。
また、厚生労働省では自社のホームページ上での情報提供だけでなく、厚生労働省の運営する人材サービス総合サイトの積極的な活用を推進しています。
まとめ
2015年の改正から2021年の改正まで、労働者を保護する為にさまざまな新しい制度の義務化が進められてきました。改正ごとに、より一層派遣労働者が安定して働くことができるような制度になっていることがわかります。派遣可能期間の規制「3年ルール」や派遣労働者の待遇決定方法「同一労働同一賃金」など派遣にかかわる人にとって非常に大きな改正も多く、派遣の活用にあたってしっかりと理解を深める必要があります。今後も定期的な改正が予想されるため、労働者派遣法に関しては常に最新の情報を得るように心がけ、社内でも都度最新の情報を共有するよう心がけましょう。
▼ 関連資料
参考文献
厚生労働省「労働契約申込みみなし制度の概要」
厚生労働省「労働者派遣事業の許可制について」
厚生労働省「平成27年 労働者派遣法改正法」