派遣社員の受け入れに必要な準備は?受け入れ後のポイントも解説
さまざまな分野において派遣社員を活用している企業や派遣社員の数は増えてきています。派遣社員の受け入れは、人材不足の解消や業務の効率化などにつながり企業にとって大きなメリットがあります。しかし、派遣先企業は派遣元会社からただ派遣を受け入れるだけでなく、受け入れ態勢の整備やさまざまな管理などが必要になります。
この記事では、これから派遣社員を活用しようとしている企業、現在活用している企業の方が、派遣社員を活用する上で気をつけることや準備することなどについて説明します。
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派遣先とは?
派遣先とは、派遣労働者が実際に労働を行う企業のことです。人材派遣を行っている派遣元事業主(派遣会社)と派遣契約を結び、派遣労働者を手配してもらいます。派遣労働者と派遣先は、労働契約は結ばず、指揮命令関係のみがあります。
派遣について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
派遣社員受け入れ前に派遣先がすること
派遣先は、派遣社員を受け入れる前に下記のことについて確認や整備、準備などを行わなければいけません。確認を怠ると法に触れてしまうことや受け入れ後の業務がスムーズに進まなくなる可能性があるため、しっかりと何をするべきか理解することが大切です。
社会保険・労働保険が適用されているかの確認
派遣先は、受け入れる派遣社員について社会保険・労働保険の加入が適切に行われていることの確認をすることが必要です。
社会・労働保険の加入について、派遣元の判断に全て任せるのではなく、派遣元から加入していないという通知を受けた場合、それが正当な理由であるか確認しなくてはいけません。正当な理由でない場合、保険への加入あるいは派遣社員の入れ替えを求める必要があります。
自社での雇用歴があるかどうか
派遣先は、60歳以上の定年退職者を除き、自社で直接雇用していた労働者を離職後1年以内に派遣元を介して、派遣社員として受け入れることはできません。そのため、派遣先は受け入れる派遣社員が1年以内に自社で直接雇用をしていた社員でないか確認し、1年以内に直接雇用をしていた場合は、派遣元に派遣社員の入れ替えを求めることが必要です。
職場環境の整備
職場環境の整備とは、派遣社員が快適に業務にあたれるような職場環境を準備することです。職場環境は、ハード面・ソフト面の両方で整備及び配慮が求められます。
【ハード面】 【ソフト面】 |
派遣社員と正社員の待遇を同じにする
派遣先は、派遣社員と自社で雇用している正社員との間に不合理な待遇差が無いようにしなければいけません。2020年4月に施行された労働者派遣法で同一労働同一賃金が導入されたことで、派遣先の社員と派遣社員が同種の業務に従事する場合、不合理な待遇差の解消を図るため以下の内容について配慮することが求められるようになりました。
・派遣元に対し、派遣先の同種の業務に従事する労働者に関する賃金水準の情報提供などを行う |
同一労働同一賃金について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
派遣先責任者の選定
派遣先責任者とは、派遣労働者に関する就業の管理を一元的に行い、派遣社員の適正な就業を確保するために選任される人のことです。派遣先の雇用する労働者(法人の場合は役員も可)の中から事業所や派遣就業の場所ごとに専属の派遣先責任者を選任する必要があります。
派遣先責任者の決め方
派遣先責任者は、事業所の派遣社員100人ごとに派遣先責任者1人以上を選任します。ただし、事業所の派遣社員数と派遣先の労働者数の合計が5人以下のときは、選任する必要はありません。
選任する際は、以下の内容などを満たし職務を的確に遂行できる人を選任するよう努める必要があります。
・労働関係法令の知識を持つ |
派遣先責任者の役割
派遣先責任者が行う業務内容は以下のとおりです。
・以下の内容についての関係者へ周知 |
指揮命令者の選定
指揮命令者とは、派遣社員に対して具体的な業務内容などについて指導・指示を行ったり、派遣社員からの質問に答えたりする人のことです。派遣先は、派遣社員の指揮命令を行う人の選定をする必要があります。
指揮命令者の決め方
指揮命令者は、派遣先で派遣社員に指示を出すなど指導する人になるため、派遣社員が派遣される課に所属している人であることがほとんどです。派遣社員が行う業務について詳しく、適切な指示を出せる人から選ぶことが大切です。また、派遣先責任者との兼任は可能です。
【Tips】3年ルールと指揮命令者を決める際の注意点同じ派遣社員を受け入れられる期間は「課」単位で原則最大3年(個人単位のルール)と決まっていますが、「課」を変えれば同じ部署でも同じ派遣社員を再度受け入れることが可能です。 |
指揮命令者の役割
指揮命令者の役割は、派遣元との契約内容に基づき派遣社員に対して業務における指示や説明などをすることです。また、派遣社員の勤怠や健康の管理、就業環境が適切であるかの確認なども行います。
苦情処理担当者の選定
苦情処理担当者とは、派遣社員からの苦情を受け付け解決する人のことです。派遣先は、派遣社員の苦情を処理する担当者を選定する必要があります。
苦情処理担当者の決め方
苦情処理担当者は、苦情に対して客観的な視点から誠意を持って対応し適切に処理できる人を選ぶことが大切です。また、派遣先責任者との兼任は可能ですが、指揮命令者との兼任はできません。
苦情処理担当者の役割
苦情処理担当者の役割は、苦情の申し出があった場合適切かつ迅速に処理を行い、派遣労働者の適切な就業環境を維持することです。具体的には、苦情の内容を派遣元に通知するとともに派遣元と密接に連携して誠意を持って処理を行わなければいけません。また、苦情の申し出を受けたことを理由に派遣社員に不利益な取扱いをしてはいけません。
派遣社員受け入れ後に派遣先がすること
派遣先は派遣社員を受け入れた後、派遣社員の管理や派遣先管理台帳の作成及び管理をしなくてはいけません。それぞれについて具体的にどのようなことをする必要があるのか説明します。
派遣社員の管理
派遣社員を受け入れる際に管理するべき事項について紹介します。主に、勤怠の管理・健康管理を行うことが必要です。それぞれについて、順番に説明します。
勤怠の管理
勤怠管理とは、派遣社員の出勤・欠勤状況や始業・終業時間、休憩時間や残業時間等の労働時間、有給休暇の取得状況などについて管理することです。派遣社員の勤怠情報について、派遣先は派遣元に月1回以上報告する義務があります。
時間外労働の上限については、以下の記事をご覧ください。
健康の管理
健康管理とは、温度や照明の調整、業務中において危険や健康に害があるものの取り扱いをさせていないかなどの管理のことです。健康診断は、派遣会社に実施義務がありますが、業務における健康管理については、派遣先が行う必要があります。
派遣先管理台帳の作成・管理
派遣先管理台帳とは、派遣先が派遣社員の就業実態などを記録し把握するとともに、その内容の一部を派遣元に提出するために作成するものです。派遣先管理台帳の作成と保管は義務になっているため、派遣先は必ず作成し適切な期間管理をする必要があります。ここでは作成する際に、どのようなことを記載するか、保管期間などについて説明します。
派遣先管理台帳の内容
派遣先管理台帳には、派遣社員ごとに派遣社員の氏名や派遣元事業主の氏名、派遣就業開始日などを記載する必要があります。
派遣先管理台帳の管理期間
派遣先管理台帳は、派遣契約の終了日から3年間保存しなければいけません。また、派遣先は派遣先管理台帳に記載した事項を派遣元事業主に通知する必要があります。通知は1カ月に1回以上、一定の期日を定め、派遣労働者ごとに書面、FAX又は電子メールにより行わなければなりません。また、派遣元事業主から請求があったときも、遅滞なく同様に通知しなければなりません。派遣先管理台帳を所定の方法により、作成、記載、保存若しくは通知しなかった場合、派遣先は30 万円以下の罰金に処せられる場合があります。
まとめ
派遣先は、法令を遵守しつつスムーズに派遣社員の受け入れや活用をするために、派遣社員を受け入れる前後でそれぞれどのようなことをしなければいけないのかなどを理解することが必要です。また、派遣社員を受け入れる前に派遣先の社員がそれぞれどのような役割を担うことになるのか事前に決めておくことで、それぞれの作業における準備が可能になります。より効率的に業務を行うためにも派遣先がするべきことについてしっかりと理解していきましょう。
▼ 関連資料
参考文献
厚生労働省「派遣先が講ずべき措置」