中小企業も対象に。「パワハラ防止法」の内容と企業が対応すべきこととは
2020年6月に施行されたパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)。 2022年4月からは中小企業もこの法律の対象となり、職場でのハラスメント防止・対策が義務化されます。
この記事では、
・どのような行為がパワハラに該当するのか
・企業が行うべきとはパワハラ防止のための対応とは何か
といったポイントを解説していきます。
目次[非表示]
ハラスメント問題の現状
厚生労働省の調査によると、各都道府県にある総合労働相談コーナーへの「いじめ・嫌がらせ」といったハラスメントに関する相談件数は年々増加傾向にあり、2018年度には82,797件にのぼりました。
総合労働相談コーナーでは、労働に関するさまざまな相談を受け付けていますが、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は、過去7年連続でトップとなっています。
また、2016年に実施された調査(※)では、過去3年間に、実際にパワーハラスメントに関する相談を1件以上受けたことがある企業は回答した企業全体の49.8%、実際にパワーハラスメントに該当する事案のあった企業は回答した企業全体の36.3%にものぼります。
※厚生労働省あかるい職場応援団「データで見るハラスメント」
これらの数値からも、パワハラの問題が深刻かつ身近になっていることがわかります。
パワハラ防止法では罰則等は設けられていませんが、パワハラが発生した際に適切な対処がとられなければ訴訟に発展するケースも十分に考えられます。 自社の状況を見直し、パワハラの防止はもちろんパワハラが発生してしまった時のための対応策を整えていきましょう。
今回対象となる中小企業の定義
今回、パワハラ防止法の適用対象となる企業は以下のように規定されています。
自社が該当するかどうかの参考にしてみてください。
分類 |
資本金または出資額 |
従業員数 |
---|---|---|
製造業など |
3億円以下 |
300人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
小売業 |
5,000万円以下 |
50人以下 |
職場におけるパワハラとは?
パワハラの定義・分類
厚生労働省が示す指針では、職場におけるパワハラを下記①~③をすべてみたすもの、としています。
①優越的な関係を背景とした
②業務上必要かつ相当の範囲を超えた言動であり、
③労働者の就業環境が害されるもの
また、同指針ではパワハラを6つのカテゴリーに分類しています。
①身体的な攻撃(暴行・傷害) ②精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言) ③人間関係から切り離し(隔離・仲間外し・無視) ④過大な要求(明らかに不要なことや遂行不可能な業務の強制・仕事の妨害) ⑤過小な要求(能力や経験と見合わない程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないこと) ⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること) |
パワハラに該当するとされる具体的な行為
カテゴリ |
パワハラに該当すると考えられる行為 |
---|---|
身体的な攻撃 |
・殴打、蹴る
・ものを投げつける
|
精神的な攻撃 |
・人格を否定するような言動をとる
・相手の性的志向、性自認を侮蔑する
・業務上の必要な範囲を超えて長時間にわたって厳しい叱責を繰り返す
・相手の能力を否定したり、罵倒するような内容を含むメールを本人を含む複数の社員に送信する
|
人間関係の切り離し |
・自分の意に沿わない社員を仕事から外し、長期間隔離したり、自宅で研修させたりする
・一人の社員に対して、同僚が集団で無視して孤立させる
|
過大な要求 |
・新入社員に対して必要な教育を行わずに難しい目標を与え、達成できないことを責める
・業務とは無関係の私的な雑用を強制する
|
過小な要求 |
・管理職の社員を退職させるために、誰でもできるような業務を任せる
・気に入らない社員に仕事を与えない
|
個の侵害 |
・職場の外で社員を監視したり、私物の写真を撮る
・社員の性的志向や病歴などの個人情報を、本人の了承を得ずに他の社員に暴露する
|
このように基準が設けられてはいますが、個別の事案によって判断が異なる場合があることを十分に理解したうえで、パワハラに該当するか微妙なものでも相談に対応するよう求められています。
企業に求められる具体的な対応
では、事業主に求められる具体的な対応とは何なのでしょうか。
厚生労働省は以下の4つの項目を定めています。
①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③職場におけるパワハラにかかる迅速かつ適切な対応
④上記までの措置とあわせて講ずべき措置
|
①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
事業主は、職場でのパワハラにあたる内容やパワハラを行ってはいけない旨を就業規則や社内報、研修等を通して周知・啓発することが求められます。 また、パワハラを行った場合の懲戒規定も定め、パワハラを行った従業員は懲戒処分の対象となることを十分に周知しましょう。
②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
従業員からの相談に対して、内容や状況に応じた柔軟な対応ができるよう、体制を整える必要があります。
【対応①】相談窓口を設け、従業員に周知する
相談に対応する担当者はあらかじめ決めておきましょう。 また、外部の機関へ相談対応を委託することも認められています。
【対応②】相談窓口の担当者が、相談内容に応じて適切な対応ができるようにする
実際にパワハラが発生している場合だけでなく、パワハラが発生しそうな恐れがある場合や、 それに該当するか微妙でも、幅広く相談に対応できる体制である必要があります。
相談窓口の担当者に対する研修を実施すること、相談対応時のマニュアルを整備しておくことはもちろん、必要に応じて人事部門と連携が図れるようにしておきましょう。
③職場におけるパワハラにかかる迅速かつ適切な対応
職場でのパワハラに関する相談があった場合、事業主はその事実関係を迅速かつ正確に確認し、適正な対処をしなければなりません。
【対応①】事実関係を迅速かつ正確に確認・把握する
相談窓口の担当者や人事部門の担当者で、相談者・行為者の双方から事実関係を確認します。 その際、相談者の心身の状況などに適切に配慮することが重要です。 それぞれの意見に食い違いがあり、事実確認が十分にできない場合は第三者からも事実関係を確認しましょう。 また、事実確認が困難な場合は、中立な立場にある外部機関に処理を委託することも可能です。
【対応②】パワハラの事実が確認できた場合、速やかに被害者への配慮のための措置をとる
事業主は、状況に応じて以下のような措置をとる必要があります。
・被害者と行為者の関係改善のための援助 ・被害者と行為者を引き離すための配置転換 ・行為者へ謝罪を促す ・被害者の労働条件上の不利益の回復 ・被害者がメンタルヘルスに不調をきたしている場合、産業保健スタッフによる相談対応
【対応③】パワハラの事実が確認できた場合、行為者に対する適切な措置をとる
パワハラが発生した場合には、就業規則で定めた規定に基づき、行為者に対し懲戒処分を行います。また、被害者との関係改善に向けた適切な対応ができるよう指導することも重要です。
【対応④】再発防止に向けた措置をとる
パワハラの事実がなかった場合でも、改めてパワハラに関する方針の周知・啓発といった再発防止策を実施します。
就業規則の再配布や研修の実施などを通して、パワハラを行ってはならない旨・パワハラ防止に向けた会社の方針やパワハラを行った従業員への対処内容を周知徹底してください。
④上記までの措置とあわせて講ずべき措置
①~③までとあわせ、プライバシーの保護や、相談した労働者が不利益な取り扱いをされないようにしなければなりません。
【対応①】相談者・行為者のプライバシーを守るための措置をとる
相談者、行為者双方のプライバシーを守るためのマニュアルの整備や相談窓口の担当者への研修を行います。
【対応②】パワハラの相談等を理由に、従業員に対して不利益な取り扱いをしない
パワハラに関する相談をすることで、労働者が不利益を被ることがないよう、事業主はその旨を就業規則や社内向けの資料に明記することが求められます。
以上の2点を周知徹底することで、相談者が安心して相談できる環境を構築していきましょう。
まとめ
ご紹介したように、パワハラ防止法が中小企業にも適用されることに伴い、中小企業においてもさまざまな措置が求められるようになります。 少なからず企業にとって負担となる面もあるかしれませんが、パワハラをはじめとしたハラスメントに関する対策を整備することで、未然のトラブル防止や離職率の低下につながることが期待できます。
この法律の施行を機に自社のハラスメント対策を見直し、職場環境の改善・より良い労働環境の構築に取り組んでいただければと思います。
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